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遺言書の作成方法と保管方法

目次

1 はじめに

 自分の死後に備え、自分の意思を遺すために、遺言書は作成されます。
 遺言書を作成するために、相続人の同意は必要ありません。遺言者自身の意思だけで遺言書は作成することができます。
 ただし、遺言書は民法に定められた方式で作成しなければなりません。遺言書が、民法に定められた方式を備えていなければ、無効な遺言書となってしまいます。

2 遺言の方式

 遺言書の方式には、普通方式と、特別方式があります。
 普通方式には、公正証書遺言自筆証書遺言秘密証書遺言があります。
 通常は、遺言は普通方式により作成することが多いでしょう。

3 公正証書遺言

 公正証書遺言は、公証人が遺言を筆記し、公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です(969条)。
 公正証書遺言は、専門家である公証人が遺言の作成に関与しますので、将来、紛争が発生することを予防することが期待できます。また、遺言書は公証役場に保管されますので、紛失や偽造のおそれもありません。
 ただし、公正証書遺言を作成する場合には費用が発生します。
 公正証書遺言を作成するには、公証人と事前に遺言書案を協議し作成しており、作成日を予約し、当日は公証人が遺言の内容を読み上げ、遺言者と証人が署名押印するという流れになります。病気などの事情で、遺言作成者が、公証役場に行くことができない場合は、公証人に出張してもらうこともできます。
 公正証書遺言は、3通(原本、正本、謄本)が作成され、原本が公証役場に保管され、正本・謄本は遺言者や遺言執行者に交付されます。

4 自筆証書遺言

  1. 自筆証書遺言は、遺言の作成者(遺言者)が、遺言書の全文、日付、氏名を自署し、押印すれば成立します(民法968条1項)。公正証書遺言とは異なり、証人や立会人は不要です。
  2. 自署
    自筆証書遺言は、遺言書の全文を自分で書く必要があります。(ただし財産目録については、自署の要件は緩和されています)。パソコンを使って作成したものや、コピーしたものでは、要件を満たしません。
  3. 日付
    日付は、年月日まで特定されるように記載しなければなりません。具体的には、「令和3年9月17日」という記載であれば、有効です。
  4. 氏名
    氏名は、遺言者の同一性が確保されていれば有効です。戸籍上の氏名でなくとも、通称やペンネームでも有効です。
  5. 押印
    印章に制限はありませんので、実印でなくともよく、三文判や指印でも有効です。

5 秘密証書遺言

 秘密証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を秘密にして遺言書を作成したうえで、封印をする方法で作成する遺言書です。
 秘密証書遺言の作成には、公証人の関与が必要です。秘密証書遺言は、公正証書遺言と同じく、専門家である公証人が関与するため、他人による偽造のおそれを減らすことができます。
 遺言があることを相続人に明らかにしつつ、遺言の内容は秘密にできる点が、公正証書遺言とは異なる点です。

6 遺言書の保管制度

 自筆証書遺言は、遺言を残す人が自ら作成する遺言書で、紙とペンさえあれば、費用をかけずに、いつでも作成できるという手軽な遺言書です。ただ、従前は、その全文を自書しなければならないとされていて、財産が多岐にわたっている場合、財産を特定する情報を逐一、手書きで記載しなければならず、かなりの手間でした。特にご高齢の方やご病気の方には、相当な負担であったと思います。

 そこで、自筆証書遺言をより使いやすくする目的で、平成30年に法改正がなされました。法改正により、遺言書の本文、日付、氏名は、やはり自書しなければなりませんが、相続財産の目録は、自書しなくても良いことになりました(ただし、全ページに署名押印が必要です)。例えば、パソコンなどで作成しても良いですし、預金通帳や不動産登記事項証明書のコピーを目録にしてしまうことも可能になりました。

 これで、手書きの負担は軽減されるかと思いますが、自筆証書遺言は、手軽である反面、第三者のチェックが入らないため、不備がある可能性もあり、最悪のケースでは、無効になってしまうリスクもあります。

 そのため、安全性・確実性を求めるのであれば、やはり公証役場で作成する公正証書遺言が望ましいです。また、仮に費用や手間などの関係で、どうしても自筆証書遺言が良いという場合であっても、せめて弁護士に事前にチェックしてもらうことをお勧めします。

 他にも、従来の自筆証書遺言のデメリットを改善して、より安心して使える制度が令和2年7月10日より始まりました。
これまで、自筆証書遺言は、自宅などで、長期にわたり保管される結果、せっかく作成した遺言書を紛失してしまうケースがありました。

 また、自筆証書遺言の場合、相続人になる方等に遺言書を無断で閲覧され、破棄・隠匿、内容の改ざんなどがなされるケースもありました。

 これらは、遺言者自身の責任で遺言書の保管をしなければならなかったためであって、従来、自筆証書遺言のデメリットとされていたものです。

 そこで、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という新たな法律に基づく遺言書の保管制度が創設され、自筆証書遺言を公的に保管してもらえる制度がスタートすることになりました。

 具体的には、遺言者自身が作成した自筆証書遺言の原本を法務局に持参し、保管の申請をすることで、法務局において保管をしてもらうことができるようになります。

 これにより、まず紛失のリスクはなくなります。また、遺言者が亡くなった後、相続人等は遺言書の内容を確認できるようになりますが、あくまで亡くなった後に確認ができるだけで、遺言者の生前は遺言者本人以外、内容を確認することはできません。そのため、第三者が無断で遺言の内容を閲覧し、破棄・改ざんするリスクも回避できるようになりました。

 さらに、自筆証書遺言では、従前家庭裁判所にて、検認という手続きが必要でした。必要書類の準備に加えて、手続きに1か月以上かかることもありましたが、この遺言書保管の制度を使うことにより、検認の手続きも不要となりました。

 自筆証書遺言である以上、安全性・確実性という意味では、どうしても公正証書遺言には劣りますが、それでも、この新制度を併用することにより、自筆証書遺言のデメリットはかなり改善されます。

 ですので、自筆証書遺言を作成された場合は、自宅での保管ではなく、この新制度も併せて利用してみてはいかがでしょうか。